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INTERVIEW

TV番組作りの手法でブランド作り

ADELLYディレクター小松未季さん
UPLOADED 08 DECEMBER, 2020

合同展「PLUG IN」(主催:繊研新聞社)の出展者の中から来場者が注目ブランドを投票して選定する「PLUG IN GRAND PRIX」で、レディスアパレルの「ADELLY」が2018年10月展から2019年3 月展、10月展と3回連続で一位に輝き、殿堂入りを果たしました。好成績の背景には同ブランドならではのブランディング手法や仕事の流儀が。ディレクターの小松未季さんに聞きました。

おめでとうございます。3連覇は初めてのことです。

小松さん 「服の素人が立ち上げたブランドなのに3度もグランプリに選ばれ、驚いています。投票用紙にご記入頂いた多くのコメントに元気をもらっています。反響は大きく、小売店からの取引依頼や期間限定店の出店打診を頂戴しました。素材メーカーなどからのご提案も増えました。こうしてブランドが一歩ずつ育っていくのだなと実感しています」

人気の要因は確固としたブランディングと思えますが、いかがですか。

小松さん 「スタートしたのは2018年春夏物から。初めから今のようなブランド像があったわけではなくて、もともとテレビ番組の制作やイベントの企画・運営会社がはじめたものでした。私自身もスタイリストで番組などの製作現場にかかわっていましたが、服や服作りについては勉強もしたこともなく、まったくの素人。素材の調達先や縫製工場も知らなくて、外部スタッフのネットワークによって実現できたと思っています。実はブランディングや事業計画などは無くて、『思い』だけでスタートしました」

どんな“思い”ですか?

小松さん「きっかけは代表の芥川が番組に出演するタレントや芸人の衣装を手配する中で感じたファッションの魅力でした。代表は有名なお笑いタレントのマネージャーだった時期を経て起業し、番組制作にかかわる中で、人と人とが作り出す笑いや空間は一瞬で終わってしまうけど、ファッションは一度に多くの人をワクワクさせ、個々人のテンションを上げることができる、加えて愛着の一点を着るたびに感動や喜びが蘇る、そんなファッションの魅力に気付いて、その『思い』を実現したいとなったわけです。ですからコンセプトやイメージもなく、『思い』だけでスタートしたわけです」

では、コンセプト作りは短期間だったとか

小松さん「コンセプトをまとめ、生地や工場探して立ち上げるまでに半年間でした。スピードが速かったのは初めての服作りだったにもかかわらず私の意見を聞き入れてもらえたからだと思います。スタイリストの仕事を通して感じていた多くのことが実現できました。
それが可能だったのは本業の番組制作で培われた仕事の仕方がベースにあったからだと思います。番組作りではプロデューサーが企画を練り、ディレクターがストーリーや脚本を決めて、出演者が演じ、撮影スタッフの力によって一本の番組が成立しています。この手法をADELLYでも無意識に採用しました。私の好き嫌いを知っている芥川社長がプロデューサー役でブランド全体の方向を決め、収支を管理する、私がディレクターとして具体的なテーマや内容を考えて外部の生産管理担当、パターンナー、縫製工場などの製作スタッフとすり合わせて商品に仕上げる。チームは少人数だったので意思疎通が容易で、個々人の役割も明確でした。それが企画のまとまりにつながったと思います」

ADELLYは特徴的な商品が多く、ブランドの印象が強いですね。

小松さん「企画・提案でこだわっている点がいくつかあります。ワンピースを打ち出しアイテムにしているのもそのひとつです。ワンピースは女性を印象付け、一枚でスタイリングが完成するので着こなしや組み合わせも容易で、着る人にストレスを感じさせない。加えて「女性の気分を盛り上げ、心躍る日々を過ごすための服」「記憶に残る服」というブランドコンセプトにうってつけのアイテムですから毎シーズン25~30型を提案している中で4型以上入れています。軸となるアイテムが明確だとブランドの印象も強くなりますから。透け感のある生地使いや刺繍にもこだわっています。「エモ―ショナル」というキーワードを表現できるからです。ただ、あえて継続品番は設けていません。着る人を限定してしまうし、時代を感じる表現を盛り込んでいかないと古く見えてしまうので、毎シーズン新素材を採用し、新しい刺繍テクニックを採用して新商品を出しています。生地や刺繍の選定でこれまでで迷ったことはありません。でも、刺繍や素材使いだけでブランドを際立たせるとも思っていません。商品とアイテム構成、企画、提案内容と立ち位置をスタンダードに寄せて、時代観のある表現を盛り込むことに腐心することが、ズレが生まれないにくい結果につながっているかもしれません」

「オケージョン寄りのオーソドックスな服」とは?

小松さん「私自身が好きなスタイルです。アクセサリーを足すことで会食やパーティーにも対応できる“きれいなオフィススタイル”になるし、対象とする20代後半から30代の女性が着ると背筋が伸びる服、着ることによって仕草や言葉が変わる服が目標です。

価格設定で重視していることは?

小松さん「ワンピースが3万円前後から6万円台です。着こなしによって非日常的なシーンにも幅広く対応できて、何より着る人が誇らしく感じられる価格でありながら背伸びせずに買える、そうした納得感のある値段を設定しています」

発信にも力を入れていますね。

小松さん「女性キャスターや女優への貸し出しも多く、テレビ映えを狙った発信にも入れています。私のスタイリストのキャリアが活きる領域でもあります。商品力に片寄って発信をおろそかにするのはどうかと思いますが、他方で発信ばかりに頼るのも正しいとは思いません。アデリーの場合はあくまで商品が最優先で、物作りや企画に込めた思いを第一義に考えています。その次に打ち出しを絞っていくのが順番で、コレクション全体が出来上がってから一点ごとに着てほしい女優やキャスターを思い浮かべ、当てはまる雑誌を選定していくようにしています。本業の番組制作で知り合ったタレントや芸能人のツテに頼って売り上げを追求するのは目指している方法とは違うと思っているからです」

今後はどのような展開を考えていますか?

小松さん「ブランドの世界観を広げていきたいと思っています。ただし、単純に事業の拡大は目指しているわけではありません。女性の気分、エモーションを満たしていくために靴やバッグといったアイテムを加えていきたいからです。一部、先行してブランドの目指す世界観を広げ、具体的に表現するために独自に製作するブランドのカタログで注目の街のお屋さんを紹介するなど、協業を展望した企画も試験的にスタートさせています。加えてイベントも企画して、おしゃれを楽しむ心地良さを広めたい空間や時間を提供すること、服のブランドにとどまらずに顔の見えるコミュニケ―ション作りが夢です」

(2019年12月24日にインタビューした内容を再編、再録しました)

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